ベトナム旅行に予防接種は必要?インフルエンザ・狂犬病・デング熱…在住者目線で考える対策まとめ

海外旅行における安全対策のひとつに、感染症予防が挙げられます。特にベトナムを含む東南アジアのエリアは、日本にはない様々な感染のリスクを含んでいます。今回はベトナム旅行を予定している方向けに、現地の実態と対策について在住者目線でお届けします。

ベトナムの気象・衛生事情


南北1,650kmにも及ぶ細長い国土が特徴的なベトナム。南部のホーチミンは熱帯モンスーン気候という、年間を通じて30℃を超える高温多湿の環境にあります。一方で北部のハノイは、緩やかな四季の流れを感じる亜熱帯性気候にあります。南北共に雨季・乾季の到来は日本よりも顕著に表れ、雨季のシーズンは1日に何度も激しいスコールが降り、乾季の終わりごろには厳しい暑さに見舞われます。こうした慣れない環境での旅行は、熱射病や脱水症状の他、思わぬ体調不良を引き起こす可能性も0ではありません。

また、経済成長が著しいベトナムですが、生活インフラの整備や公衆衛生への意識などは発展途上な部分もあり、様々な感染症が日常的に発生しています。代表的な例では、日本でもおなじみのインフルエンザ、蚊や動物を媒介して感染する狂犬病・デング熱・日本脳炎、不衛生な環境での経口感染によるA型肝炎・腸チフス・細菌性赤痢・アメーバ赤痢、果てはB型肝炎や破傷風、大気汚染による喘息まで、挙げればきりがありません。

ベトナム旅行では、こうした状況に対して事前の予防接種が必要か否か、現地でどのような予防策を講じるべきか、万が一発症した場合にどう対処すべきかを知っておく必要があります。

ベトナム在住邦人の予防接種事情

外務省では、ベトナムへ赴任予定の方向けに「赴任者に必要な予防接種」の種類を公開しています。成人に強く勧める予防接種は、A型肝炎・B型肝炎・破傷風。望ましい予防接種は、日本脳炎・季節性インフルエンザ。生活環境により考慮すべき予防接種は、狂犬病・腸チフスと掲示されています。

しかし実際には、赴任前後に全ての予防接種を受ける人もいれば、一切の予防接種を受けていない人もいます。さらに後者は、ベトナム滞在1日目に何らかのウイルスに感染する人もいれば、5年10年経っても一切かからないという人もいます。

また、こうした予防接種は保険適用外となり、1種類あたり1万円以上の接種料金を自己負担する事に加え、複数回接種が必要なものは完了までに数ヶ月~1年以上かかる事もあります。ベトナム赴任者の場合、会社から接種代の補助を受けられる人や全額自己負担の人もおり、金額面でもどこまで予防接種を受けるべきか意見が分かれます。

先述した「成人に強く勧める予防接種」を全て終えるにしても、接種費用は総額で5万円以上、接種期間は半年以上かかる事となり、受診者の体質や過去の接種内容、同時接種の可否なども医師と相談して決める手間を考えると、僅か数日間のベトナム旅行のために接種する必要があるのか…と悩む方が多いのも仕方ありません。

ベトナム旅行で注意すべき「予防接種ができる」感染症

それでは、現地在住者目線で考える、ベトナム旅行で注意すべき感染症の種類と具体的な予防策、予防接種の必要性についてお伝えしていきます。

A型肝炎

A型肝炎は肝臓病の一種で、ウイルスに汚染された飲食物を口にするといった、不衛生な環境での経口摂取が主な原因です。発症すると熱・嘔吐・頭痛・腹痛・倦怠感などの強い肝炎症状が表れます。死亡率が極めて低いため予防接種の必要性は感じませんが、状態が悪化する傾向にある高齢の方は検討しても良いでしょう。旅行中はこまめに手洗い・うがいをする他、食事前に手指や箸を除菌シートで拭く、肉や魚は加熱済みのものを食べる、生水は飲まないようにする事で予防できます。

B型肝炎

B型肝炎は、不適切な医療行為や体液を経由して感染する肝臓病の一種です。自覚症状がある方は発症者の2~3割で、A型肝炎と近しい症状が表れます。死亡率はA型肝炎よりも高くなりますが、日常的な感染予防によって回避できる確率はB型肝炎の方が上でしょう。具体的には、不衛生な場所でピアス穴を空けるといった医療行為をしない、性的接触が起こりうる風俗店やナイトクラブに立ち寄らない事が有効です。こうした対策が自主的にできる方であれば、予防接種は不要だと考えます。

破傷風

破傷風は神経に影響を及ぼす感染症の一種で、土壌に生息する破傷風菌が傷口に入り込み、痙攣や呼吸困難などの症状を引き起こします。発症者は30代以降に多く、死亡率は30%と比較的高い数値が記録されているため、心配な方は予防接種を検討しても良いでしょう。特に地方エリアを訪れる方は、歩きやすい靴に露出を控えた服装で行動し、アウトドアによる怪我や野犬に噛まれる事のないよう注意しましょう。

日本脳炎

日本脳炎は蚊の媒介によってウイルスに感染し、神経障害を引き起こす恐れのある脳炎の一種です。死亡率は約30%と比較的高く、発症すると高熱・頭痛・嘔吐が生じて脳に障害が残る事もあります。脳炎は夏季になると北部で流行る傾向にあり、特に農村部を訪れる方は注意が必要です。予防接種を検討する他、蚊に刺されないよう手足を覆う服装を心掛け、虫よけスプレーも使用するなど対策を講じましょう。

インフルエンザ

ベトナムのインフルエンザは日本とほぼ同時期に流行します。感染経路は飛沫・接触、主な症状は高熱及び強い倦怠感という点で変わりませんが、慣れない場所での発症は、いつもより症状を辛く感じたり、完治までに時間がかかったり、食べ慣れた食品での栄養補給が難しかったり何かと苦労します。国内でインフルエンザにかかり易い方は、ベトナム旅行前に予防接種を受けておいて損はありません。さらに現地では、手洗い・うがい(生水でOK)・歯磨きを徹底し感染予防に努めましょう。

狂犬病

狂犬病にかかっている動物に噛まれると、傷口を介してウイルスに感染する恐れがあります。発症すると強い興奮や麻痺などの症状が表れ、非常に高い確率で死亡する感染症です。ベトナムでは狂犬病による死者が毎年出ており、特に地方エリアで犬に噛まれて発症したケースを耳にします。事前に予防接種を受けておくのが安心ですが、万が一予防接種をしていない状態で動物に噛まれた場合は、すぐに病院で暴露後予防接種(噛まれた後に狂犬病の発症を予防する注射)を受けましょう。都市部で観光予定の方も、むやみに動物には近づかず、噛まれたらすぐに病院・保険会社・旅行会社などへ相談できるよう、連絡手段を確保しておくことが大切です。

腸チフス

腸チフスは、サルモネラの一種とされるチフス菌に汚染された食品の経口摂取により発症します。発熱や倦怠感、激しい腹痛などの症状が伴いますが、似たような環境下で感染の恐れがあるA型肝炎よりも発症のリスクは低く、適切な治療により致死率も1%程度まで抑えられると言われています。予防接種の必要性は強く感じませんが、もし受ける場合はベトナム入国後に接種する事となります(腸チフスのワクチンは日本では未認可のため)。

以上が現地在住者目線での対策となります。いずれの予防接種も受けておいて損はありませんが、予防策を講じるだけでも感染のリスクを抑える事ができます。ぜひ試してみてください。

ベトナム旅行で注意すべき「予防接種ができない」感染症

ベトナムでは、感染のリスクがあるものの、予防接種ができないために注意すべき症状もあります。

デング熱

デング熱は蚊を媒介して感染する疾患です。発症すると高熱や頭痛、倦怠感などの辛い症状に見舞われますが、適切な治療により死亡率を1%未満に抑えることが出来ます。東南アジア各国で発症が見られる感染症ですが、ベトナム旅行者は特に注意が必要です。近年はベトナム全土でデング熱が流行し、2019年の感染者は20万人に達しました。現時点でデング熱に対するワクチンはないため、先述した日本脳炎と同じく虫よけ対策を徹底すべきでしょう。

細菌性赤痢・アメーバ赤痢・食中毒

とりわけベトナム旅行者がかかり易いのは、細菌性赤痢・アメーバ赤痢・食中毒といった腸炎です。日本とは異なる衛生環境のために発症するリスクが高く、旅行中に激しい腹痛や嘔吐に襲われ身動きが取れなくなる事も。対策としては、A型肝炎や腸チフスと同様に除菌を徹底する他、回転率の高いレストラン(屋台)を選ぶことも重要です。見た目がきれいでも客足が悪い店は、古くなった食材を使ったり、保存状態が悪い料理を提供している可能性があるためです。

喘息・アレルギー

都市部のハノイ・ホーチミンは大気汚染が深刻化しており、日頃からバイクで移動するベトナム人のほとんどがマスクをしています。紙マスクや布マスクは現地の薬局でも気軽に購入できるため、気になる方は装着しておきましょう。なお、花粉症などのアレルギー性鼻炎が心配な方もいるようですが、ベトナムでスギ花粉に苦しんでいるという話は全く聞きません。

ベトナム旅行で気を付けたいその他の症状

高温多湿の環境下にあるベトナムでは、常に熱射病や脱水症状を引き起こすリスクがあります。寝不足の状態で直射日光を長時間浴びたり、冷房の効かないローカルレストランに長く滞在していると、あっという間に体調を崩してしまいます。観光中はこまめに水分補給をして、冷房の効いたカフェやショッピングモールでの休憩を挟みながら過ごしましょう。具合が悪ければホテルに戻り、十分に休んでから観光に出掛けるか、気温が下がる夜の時間帯に外出するのもおすすめです。

ベトナム旅行で感染症の疑いがある場合はどうする?

ベトナム現地で何らかの体調不良に見舞われたら、どのように対処すべきかを確認しておきましょう。基本的にはどのような症状でも、自己判断せず然るべき医療機関を受診すべきです。軽い腹痛程度であれば、横になったり整腸剤を飲んだりして乗り切れる事もありますが、高熱や激しい腹痛・嘔吐などの症状があれば我慢せず受診し、動けない場合でも遠慮せず周りの人に助けを求めましょう。軽度の症状でも体調不良が続くようであれば、帰国した後に念のため病院に相談してください。

また、ベトナムの薬局では医薬品を購入する事も可能ですが、慣れない旅行者にはおすすめしません。寄生虫対策のために虫下しの薬を飲む人もいますが、数日間のベトナム滞在であれば不要です。薬の使用は日本から持ち込んだものに留め、追加で必要な場合は日系クリニックなどに相談しましょう。

さらに、万が一入院となった事態に備えて、ベトナムの入院環境についても知っておきましょう。受診する病院や症状の重さなどにより違いはあるものの、現地の病床では日本ほど快適に過ごせない印象です。日本語が流暢な医師・看護師がいつも側にいる訳ではないですし、英語・ベトナム語話者の医師に医療通訳を介して話すにしても、満足のいくコミュニケーションが取れるとは限りません。

また、病室に便利なアメニティが揃っていたり、日本人好みの病人食を用意してくれる可能性は低いです。生活用品や食料品の確保をサポートしてくれる友人や、居なければ自分でデリバリーを頼む必要があるなど、現地での入院事情はなかなかハードです。

このように、病気の時はただでさえ辛いのですから、金銭的な負担までしなくて済むよう、海外損害保険には必ず加入してください。さらに、保険関連書類と然るべき機関の連絡先は必ず持ち歩くようにし、万全の状態でベトナム旅行に臨みましょう。

まとめ

ここまでベトナム旅行に際して知っておきたい、様々な感染症や予防接種、対策などについてお伝えしてきました。実際に筆者(20代・女性)はベトナム渡航後に様々な予防接種を受けましたが、現地では軽い熱中症と食中毒を起こした程度で済みました。どこまで予防接種を受けるかは自己判断になりますが、一般的な観光エリアを回る予定で、持病や免疫力の低下に不安を感じたことは無く、万が一の事があっても冷静に対処できる方であれば、インフルエンザの予防接種以外はあまり必要ないのではと思います。

しっかり受けておきたいという方は、病院に相談して費用や接種回数・スケジュールを確認し、いつ頃からベトナムを訪れても問題ないか計画を立ててみましょう。接種完了となれば数年間は抗体が持続しますし、ベトナム以外のアジア諸国での旅行も安心して楽しめます。頻繁に海外を訪れる方や、数年以内に海外移住を考えている方は、この機会に接種しておいても良いと思います。

感染症へのリスクと対策を知ることで、みなさんがより安心してベトナム旅行を楽しめるよう祈っています!

 

 

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