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カオダイ教寺院「老人とダイバーシティ」 - ホーチミンと周辺の観光スポット

売れ残り作家が行く!アジア旅行記 旅を通して現地のおすすめ観光スポットや近況を
ちょっとミステリーにご紹介します
旅人・作家:山部拓人

「密室は崩れましたね」

僕は空を見上げると言いました。
カオダイ教。世界的には、まだまだマイナーな新興宗教であるそのメッカの地へ。僕は以前の旅で来た時とは違う気持ちで、向かっていました。

ベトナム南部のカオダイ教の寺院

カオダイ教の総本山があるタイニン省は、ホーチミン市内から北西に120kmほど進んだところに位置します。
タクシー等を使うと金額で泣く事になるので、出来ればツアーに参加される手をおすすめします。また、ツアーなら礼拝の時間にも合わせてくれますから、カオダイ教の活動を垣間見る事も可能。
ちなみに総本山は観光スポットとしても人気上昇中で、欧米人をはじめとする外国人観光客でいつも溢れています。

カオダイ教は1926年にゴ・ヴァン・チェとレ・ヴァン・チャウンの2人の教祖によって発足されました。今やタイニン省の人口の7割近くが、カオダイ教に属しているとの情報も。しかしそうなると、かなりの確率で身内の誰かしらがリアルにその信者です。
孫の世代からシニア層まで 。親戚同士の絆が強いベトナム人の間では、この新興宗教を悪く思う人などいないのではないでしょうか。

ある同僚の話

僕のアルバイト先の同僚も、もちろん大学生ばかりではありません。還暦を過ぎたシニア層の男性が、新たに加わった事がありました。近年ファストフード店やコンビニ等では、その労働人口が増加中。
自分も遠くない未来に同一カテゴリに入るわけで、取り立ててここで書くほどの事はない予定でした。

ところがこの男性がある時から、奇妙な行動をとるようになるのです。 突然脈絡もない話を始めたり、ビラのような物を渡したり。シフトの交代等で顔を合わせる主婦の方や学生が、まずそれに遭遇しました。
男性はどちらかと言えば真面目なタイプ。遊びもあまりしないまま、年齢を重ねて来た方だと聞いていました。

そんな時にふと脳裏に浮かぶのが、新興宗教の四文字。
暴言を前提に言えば、日本でのその言葉が持つ印象はあまり良いものではないでしょう。そんな普通の日本人である僕が、カオダイ教にまず突っ込みをいれたくなる事があります。

カオダイと言えばの、一つ目マーク。

ベトナム南部のカオダイ教のシンボルマーク

不気味過ぎて無理と、炎上必至かも知れないこのマークこそカオダイ教のシンボルです。
我々日本人の浮ついた猜疑心も邪念も、敬虔なベトナム人の心には及ばず。彼らは至って真面目です。天眼と呼ばれるこの目は、心臓に近い左目を表していて、心と繋がっているそう。宇宙の原理の象徴とされています。

何だか不意に思い出しました。
米国一ドル紙幣の、ピラミッド先端に描かれた一つ目。あちらには、フリーメイソンが関与しているなんて、騒つく話がありました。
そのうちこの天眼にも、騒つく誰かが都市伝説をつけてくるのでしょうか。

ツアーバスを降りると、ガイドのタムさんが旅行客を先導します。 いやいや。
それでも、やはりここへ来て良かったです。シンボルマークこそ怪しいけれど、この新興宗教には開かれた清々しさを感じます。

タイニン省は人口約100万人。カンボジアとの国境に接している省の一つです。この地にはカオダイ教だけでなく、由緒正しき仏教寺院も多数点在。ベトナム国内の仏教徒も、テト(旧正月)には遠方はるばる参拝に訪れます。

カオダイ教の総本山があるのは、決して都会とは言えないのどかな風景の真ん中。大通りに面していて、近くには観光客向けの露店やレストランも並びます。
敷地内は広大なのですが、正に聖地といったオーラに全体が包まれていました。

ベトナム南部のカオダイ教の礼拝風景

礼拝は1日4回。敷地内や礼拝中の写真撮影も可能です。日本の宗教団体の多くが撮影に積極的ではないので、このあたりがまず開かれた感のポイントでしょう。
ただし、礼拝の時間には正門の前を歩いてはならない決まりがあります。また、門前には徳の高い僧侶の方たちが並びますのでご注意を。因みに、建物内での土足は厳禁との事です。

新興宗教

「還暦を過ぎて、初めてモテ期が来ました」「僕を争って若いOLの2人が昨夜戦いました」「酔って女子大生にメールで会いたいと送ったら、本当に会いに来て困りました」「女子高生からメールがあって、今後つき合う事になりました」「何故か若い女の子にモテるのですよ。この私は」
土足厳禁と言っておきながら、騒がしくて申し訳ありません。

これは全部、僕の同僚だったシニア層の男性が残した言葉(原文ママ)だそうです。
いつも老眼鏡を乗せている白髪混じりの頭に、ぽこりと飛び出し気味のお腹。口を突いて出るのは、昭和初期の懐かしなお話ばかり。ガラケーを開いても、カメラを含めた付帯機能はほぼ未使用。

ここで改めて、プロファイリングをする必要はないでしょう。誰の目にも、どストライクなシニア層の男性です。
さてそうなると当然誰の頭にも生まれる、彼の言葉と現実との間のギャップ。そして、やはり導き出されてしまう例の四文字。

ベトナム南部のカオダイ教の寺院での礼拝模様

「新興宗教の中でも、カオダイ教は画期的な成り立ちをしています」 タムさんが、旅行客へ説明していました。
カオダイ教は仏教、キリスト教、イスラム教の三大宗教に加えて、儒教と道教までを合わせた5つの宗教を基盤とした混合宗教です。崇めるべき神様は釈迦やキリスト、ムハンマド。また、小説家のユーゴーや哲学者のソクラテスなども同様に祀っています。

更にインドシナ戦争中には、独自の軍隊も持っていました。これは近代の宗教団体としては、カオダイ教だけだったと言われています。
戦争から避難する人に対しての、駆け込み寺の機能も持っていたようです。
僕は施設を見渡しながら、大きく息を吐き出します。何だかとても安心しました。
ちょっと大雑把過ぎる感もありますが、昔々宗教が生まれた頃はきっとみんなこんなもの。恐らくは、人々を分け隔てなく迎え入れる場だったのではないでしょうか。

神の教えとは

ここへ来る前に観ていた、ニュース番組を思い出します。世間を騒がせている新興宗教団体が、摘発された報道でした。
若い女性信者を使い、単身の高齢男性ばかりをターゲットにしていたそうです。孤立し閉ざされたアパートでは、多くの人達が洗脳に近い事をされていたとか。
いやいや。 そもそもああいったものは、宗教団体ですらないと思います。

「神の教えは、押しつけたりしません。神様がこっちへこいこいするなんて、聞いた事ないですよ」
タムさんが、旅行客に語りかけます。
袈裟を身に纏った人達が歩いて行きました。彼らは先ほど触れた、徳の高い僧侶の方。

ベトナム南部のカオダイ教の僧侶

袈裟の色には何種類かあるそうです。白色が一般の教徒、黄色が仏教、青色はカトリック、赤色は道教。
それぞれ元に持っていた宗教を尊敬しつつ、カオダイ教に融合しているそうです。

「本来はオープンなものなのでしょう。神の教えとは」
それを聞いた旅行客は、僧侶の方達を見送るとうなづきます。
僕は空を見上げると言いました。

「密室は崩れましたね」

ヤマベ

この記事のライター;山部拓人(ヤマベ タクト)

教育系の出版社勤めから脱サラし、売れないミステリ作家の日常へ突入。 目黒区祐天寺のアルバイトで露命をつなぐ。ミステリ好きの素養がレジ打ちで鍛えられ、プロファイリング能力として近年開花。買った物や持ち物から、人の性格や行動を推し量れるまでになってしまう。ストレス解消は学生時代に始めた一人旅。三軒茶屋在住のバツ2。

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