プノン・クロム遺跡とは
About Phnom Krom Remains
プノン・ボック、プノン・バケンとともに、アンコール三大聖山の1つと言われるプノン・クロムは、実際には大きな山ではなく高さ140メートルほどの丘です。
その頂上にプラサート・プノン・クロムと呼ばれる寺院遺跡と現代の仏教寺院があり、トンレ・サップ湖に沈む夕陽と遺跡の向こうから昇る朝陽が美しい観賞スポットとしても人気があります。
プノン・クロム山はシェムリアップの中心街から車で30分くらいのところに位置しており、山の麓には現地の人々の生活を感じることができる素朴な市場があります。
そこから長い階段を上ってアンコール・パスの検札場に向かいますが、車やトゥクトゥクは迂回路を通って山を登るのです。
これら三大聖山の頂上にはそれぞれ寺院遺跡が残っており、それらは全てヤショーバルマン1世によって造られた祠堂です。
9世紀末から10世紀に建てられたと推測されるプノン・クロムの山頂寺院は、半ば倒壊している小型の遺跡ではあるものの、ヒンドゥー教三大神であるヴィシュヌ、ブラフマー、シヴァを祀る3つの祠堂にアンコール王朝初期の建築技術を見ることができます。
プノン・クロムの歴史と見所
アンコール王朝の始まりは、802年頃にジャヤーヴァルマン2世がプノン・クーレン山で即位式を挙げたことに始まります。
それまでのクメール人の歴史は、774年頃からインドネシア・ジャワに栄えていたシャイレーンドラ朝シュリーヴィジャヤ王国の属国で、中国の文献によると真臘(チェンラ)国と呼ばれる国でした。
初代王のジャヤーヴァルマン1世が建国の礎を築くと、2代目王のインドラヴァルマン1世が最初のクメール王国の首都をハリハラーラヤに設定しました。
そこはプノン・クーレン山からトンレ・サップ湖方面へ、約40キロも離れており、現在のロリュオス遺跡群が残る場所です。
ハリハラーラヤの造営もヒンドゥー教の世界観が用いられ、神々が住むというメール山(須弥山)をイメージした寺院や神話のレリーフが今でも残されています。
ハリハラーラヤの王都の造営からわずか10数年の889年には、次の王となったヤショーバルマン1世が即位し、現在のアンコール・エリアに首都ヤショーダラブラを遷都します。
ヤショーダラブラは、聖山プノン・バケンを中心にした約4キロ四方の大きな環濠に囲まれた王都であったと言われていますが、その正確な位置は未だ不明です。 その後、約550年にわたり、このアンコールに都城や寺院が建設され、何人もの国王が誕生していきます。
このアンコールの地に初めて首都を築いたヤショーバルマン1世こそ、9世紀末から10世紀初頭にかけて、プノン・クロム、プノン・バケン、プノン・ボックのそれぞれの山頂にヒンドゥー教の寺院を建てた人物です。
これらの寺院は自然の地形を上手く利用しながら丘陵に盛土をし、その上に岩やレンガを積み上げてピラミッド状に寺院の基壇を造り、天井はレンガを少しずつ張り出して組み立てています。
それは、アンコール王朝創始前のシャイレーンドラ朝シュリーヴィジャヤ王国の建築技術を継承しており、彼らが8世紀に建造したジャワ島のボロブドゥール遺跡にも似た造りです。
ただし、これら3つの山頂寺院は平地に造られたピラミッド型寺院のように下から見上げる効果を狙ったものではなく、寺院から下界を見下ろすことを意図して造られており、それぞれの山からは今でも絶景が楽しめます。
アンコール王朝から何世紀も経って、このプノン・クロムからの景色はトンレ・サップ湖を渡って攻め入る敵軍を監視する絶好の場所となりました。
悪名高いクメール・ルージュによる政権闘争が終結する少し前の1994年頃まで、カンボジア国軍が駐屯していたため、遺跡見物も景色の観賞も一般の人々はできなかったのです。
トンレサップ湖の北岸に位置する丘陵が、三大聖山の1つ、プノン・クロムです。この山頂にアンコール王朝初期に建築されたプノン・クロム寺院の遺跡が残っています。
山の途中にはバイクタクシー乗り場や現代の仏教僧院があり、麓では地元の人々が集う小さな市場が開かれています。
ラテライトの周壁に四方を囲まれたプノン・クロム遺跡は、中央に大きな基壇が残り、その上にレンガと砂岩で造られた祠堂が3つ横に並んでいます。
これらはヒンドゥー教三大神のヴィシュヌ、シヴァ、ブラフマーにそれぞれ捧げられて造られた祠堂です。
入り口の東門から見ると、右端の北祠堂がヴィシュヌ神、中央祠堂がシヴァ神、左端にあたる南祠堂にはブラフマー神が祀られています。
3つの祠堂は天井が崩れ、破損も進んでいますが、中央祠堂にはシヴァ神の象徴であるリンガの台座が残っており、各祠堂の外壁にはデヴァターの彫刻も見ることができます。
これらは全て9世紀末から10世紀初頭にかけた、アンコール王朝初期の貴重な建築・装飾物です。
そして何よりも、プノン・クロムでの一番の見どころは丘の上から見渡すトンレ・サップ湖の景色です。
太陽が湖の向こうに沈んでいく姿はとても美しく、特に雨季には辺り一面が水没して水面に映る夕陽が輝く姿も見えるでしょう。
朝は遺跡の向こうから日が昇り、だんだん明るくなってきます。早朝の清々しい景色は、湖をより神秘的に見せるでしょう。
地元の人も朝陽や夕陽の観賞に訪れるスポットですが、景色が美しく見える山頂付近は足場が悪いところも多く注意が必要です。
足元を照らすライトを持参すると良いでしょう。
また、日没後は真っ暗になるため、強盗被害なども後を絶たない治安が悪い場所です。個人での訪問は避け、信頼ができるガイドと同行することを強くお勧めします。
プノン・クロムの場所(Google MAP)
トンレサップ湖の北岸に位置する丘陵がプノン・クロムです。
シェムリアップ市街からは車で約30分、ハイキングをするのであれば麓の市場から階段や山道を登り、片道30分ほどで到着します。
三大聖山は、アンコール・トムに近いプノン・バケンから、プノン・ボックまでが約8キロ、プノン・ボックからプノン・クロムまでは約10キロ離れています。
かつての王都ヤショーダラプラの正確な位置はまだ解明されていませんが、これら聖山も何らかの関係があったのではないでしょうか。
プノン・クロムは朝陽や夕陽が美しいスポットとしても有名です。日中は修行僧や地域の人の姿も見えますが、早朝や夕方は真っ暗で人も少ないため、朝陽や夕陽観賞ツアーなどでガイドと同行することをおすすめします。