西バライ遺跡とは
About West Baray Remains
シェムリアップ国際空港に到着する直前に、飛行機の窓から見えた大きな湖が長方形の形になっていることに驚く人も多いでしょう。
これはクメール王朝の時代に人工的に造られた貯水池で「バライ」と呼ばれています。
アンコール・ワットの北西で、アンコール・トムのすぐ西に位置する西バライは、東西8キロ、南北2.1キロの大きさで、アンコール王朝最大のバライです。
アンコール・トムの建立に着手したと言われているスーリヤヴァルマン1世とその次の王ウダヤーディチャヴァルマン2世の2代にわたって建設に関わり、11世紀末頃に完成したと言われています。
バライに関する事柄は碑文などの資料にほとんど残されていないため、その建設目的は未だ不明です。
農業用の用水路を設けるための灌漑施設だったと考える現実的な説がある一方で、ヒンドゥー教の天地創造神話「入海撹拌」で、神々と阿修羅がナーガを引っ張り合った海を表した宗教的な意味を持っているという説もあります。
西バライの中心には小さな島が造られ、西メボン寺院の遺跡が残されています。
かつて乾季には歩いて渡ることもできたようですが、現在ではボートで渡ることが一般的です。
2012年から修復工事が行われている最中で遺跡自体も倒壊し一部しか残っていませんが、バブーオン様式の見事な回廊の一部を見ることができます。
また島内には伝説のワニの池もあるので、せっかく西バライまで来たのであれば西メボンにも渡ってみてください。
現在の西バライでは、アンコール・トムに近い東側は干上がっていますが、雨季には堤防まで水が溜まることがあります。
西側は一年中水溜まり、地元の人々が泳ぎや釣り、ボートに乗って水遊びを楽しむ場所になっていて、パラソルや浮き輪をレンタルする店もあり、さながら海水浴場のようです。
水面に夕陽が映り込む景色は雄大で、サンセット観賞の観光スポットとしても知られています。
また、南側には水門が作られて稲作の灌漑水路として使われており、西バライは現代のカンボジア人の生活にもうまく溶け込み利用されています。
西バライ遺跡の歴史と見所
アンコール王朝には、アンコール・トムを中心に東西・北にバライがありました。南側にはバライではなく、アンコール・ワットが位置しています。
今では東バライは完全に干上がって、農地として利用されていますが、北と西のバライには今なお水が溜められて大きな湖のようです。
これら3つのバライのうち最も古い建設は東バライで、9世紀頃に当時のクメール国王 ヤショーヴァルマン1世によって造られました。
この王はアンコール王朝で初めてアンコールの地、ヤショーダラブラに都を造った人物です。
ヤショーヴァルマン1世は、アンコール三大聖山の1つと言われるプノン・バケン山の頂上に、都の中心として「プノン・バケン寺院」を建設しました。
この寺院はヒンドゥー教で神々が住むと言われるメール山(須弥山)を模して造られ、同時期に造られた東バライはプノン・バケンの東側、山から見下ろせる位置にありました。
当時の都、ヤショーダラブラの位置はまだ正確には判明されていませんが、近接するアンコール・トムよりも大きかったのではないか、と言われています。
その後、何代かの王の交代を経てスーリヤヴァルマン1世が1020年にアンコール・トムの建造に着手します。
アンコール・トムは12世紀のジャヤーヴァルマン7世によって王都として最盛期を迎えたため、アンコール・ワットの方が先に建設されたと思われがちですが、実際の構想プランはアンコール・ワットの何年も前から立てられているのです。
西バライはアンコール・トムの建造と同じ頃に造り始め、中央寺院の西メボンは次の王のウダヤーディチャヴァルマン2世によって建立されたので、全体の完成は11世紀末頃だったと言われています。
巨大な湖が広がります
地元の方はここで漁して生活
農業用の灌漑施設だったとも
アンコール・トムでは、その長い歴史の中では後期に当たる12世紀に造られ、今では最も代表的な寺院となっているバイヨンがメール山を模して造られたと言われていますが、スーリヤヴァルマン1世が王宮の敷地内に建設したピラミッドのような儀式場「ピミアナカス」もメール山をモチーフにしていたそうです。
西バライはそのピミアナカスを経て、アンコール・トムの環濠を超えた西側に広く造られています。
アンコール王朝のほとんどの王たちは、実力主義で王座を勝ち取った者たちでした。
そのため内乱が続き、王が変わる度に権力を誇示するための寺院を建設したそうです。
そのうち国王こそが神と交信できる者、すなわち国王こそ神であると神格化されてくると、王たちは神との交信の場所として神々が住むメール山を模した建物をこぞって造るようになりました。
地元で採れた鳥や魚をBBQ
地元の方には憩いの場
巨大な鶏肉のBBQ
ヒンドゥー教ではメール山の麓には大きな海があり、そこが天地創造の始まりとなったと考えられています。
古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」で語り継がれる「入海撹拌」の舞台です。
バライはその海をイメージして造られたのではないか、とも言われており、メール山を象徴する建物から見下ろせる場所にバライがあることは興味深い事実です。
アンコール王朝最大のバライは、今ではすっかり地元の人の憩いの水辺になっています。週末には多くの人が訪れ水遊びに興じるリゾートです。
長方形の形に造られた西バライの周囲はほぼ一周することができますが、ほとんどの人は1年中水が溜まっているバライの西側の方を訪れます。
そこには貸しパラソルや浮き輪、食べ物を売る店やボート乗り場があり、手ぶらで行っても楽しめる海水浴場のようです。
この西側のボート乗り場からは、約10分で中央の西メボン寺院がある島に渡ることができ、遺跡観光も楽しめます。
まるで水平線に沈むかのような夕陽は美しく、サンセットの名所にもなっています。しかし、日が沈んだ後はあっという間に暗くなるので、単独行動は避け治安には十分注意が必要です。
西バライ遺跡を見学出来るツアーのご紹介
アンコールワットだけがカンボジアじゃない!シェムリアップ市内ツアー【ローカル編】
【グループ・混載ツアー】ツアーの魅力と見所:
シェムリアップ市内4つのスポットを訪れながら、ローカルの人々の暮らしぶりを追体験するツアーです。
アンコールワットだけがカンボジアではありません。普段は見られないような日常の様子を感じてみましょう。
シェムリアップの人々憩いの場、西バライ。週末には多くの現地人がまったりしています。
西バライの場所(Google MAP)
シェムリアップ中心のオールド・マーケットから、シェムリアップ空港方面へ車で30~40分くらいの場所にあります。
昼間の観光やピクニックに訪れるのであれば、トゥクトゥクを利用した個人旅行でも大丈夫ですが、サンセットを見に行くのであれば信頼のおけるツアーやドライバーガイドと一緒に行く方が安心です。
地図上では隣接するアンコール・トムの西大門から近いように見えますが、西バライはとても広く、西メボンへ行く船着き場まで徒歩で行ける距離ではありません。
アンコール・トムと西バライを一度に見学したい場合には、効率よくツアーで回るか、タクシーやトゥクトゥクを利用すると良いでしょう。